日本IBMと野村ホールディングス(HD)・野村証券の訴訟がわかりにくいので、経緯をまとめてみた。
システム開発の失敗をめぐる訴訟は、スルガ銀行や文化シャッターの訴訟があります。
・https://urashita.com/archives/19270
・https://urashita.com/archives/19379
システム開発の委託側は、野村ホールディングス(HD) と証券子会社・野村證券です。
システム開発の請負側は、日本IBMです。
目次
システム開発の経緯と失敗まで
2010年、野村証券は老朽化した基幹システムを2013年までに全面刷新する計画を進めていた。
また、システム開発を野村総合研究所 (NRI) に依存する体制からの脱却を狙っていた。
同じ野村グループなのに、依存からの脱却は奇妙に聞こえますが、
野村HDと野村証券は親子の関係です。野村HDは親会社、野村證券は子会社です。
一方、野村総合研究所は野村HDが2割の株式を保有するものの、別会社です。
日本IBMはNRIとのコンペを経て、野村側と2010年11月に新システムの開発に関する契約を結んだ。
スイスの金融系ソフト大手テメノスが開発したパッケージソフト「Wealth Manager」をカスタマイズして導入し、2013年1月に本稼働を迎える計画でした。
2011年4月から概要設計に入りました。
2011年6月までを概要設計とし、2012年3月までを設計・開発と連結テスト、2012年4月以降を総合テストと運用テストなどとました。
ところが、開発が大幅に遅れました。
2013年、野村側は開発作業が大幅に遅延したことから開発を中止すると判断し、日本IBMに契約解除を伝達した。
東京地裁へ訴訟の提起
2013年に野村側が日本IBMを相手取り計約36億円の損害賠償を起こした。
訴訟1:野村側が原告、日本IBMが被告です。請求額は約36億円です。
日本IBMも野村側に未払い分の報酬が存在するとして約5億6000万円を請求する訴訟を起こした。
訴訟2:日本IBMが原告、野村側が被告です。請求額は約5憶6000万円です。
訴訟1と訴訟2は別訴訟になります。
東京地裁の判決、野村側の勝訴、日本IBMの敗訴
2019年3月の一審判決では日本IBMに非があるとして、日本IBMに約16億2000万円の支払いを命じた。
開発作業が遅延した原因について、一審は主に日本IBMにあると認定した。
訴訟1:野村側の請求を認め、日本IBMに16億2000万円の支払いを命じる。
訴訟2:日本IBMの請求を棄却。
日本IBMは東京高裁に控訴した。
東京高裁の判決、日本IBMの勝訴、野村側の敗訴、判決文
2021年4月21日東京高等裁判所の控訴審判決で野村側の請求を棄却した。
東京高裁の野山宏裁判長(大竹昭彦裁判長代読)は
プロジェクト失敗の原因は仕様凍結後も変更要求を多発したユーザー企業(野村側)にある
と判断しました。
野山裁判長は工程数の削減提案に応じなかったり、変更要求を多発したりした野村側にあると認定し、契約に基づき日本IBMが履行した業務については、野村側が報酬を支払うべきだとしました。
訴訟1:日本IBMに16億2000万円の賠償を命じた東京地裁判決を変更し、野村側の請求を棄却。
訴訟2:日本IBMの請求を棄却した一審東京地裁判決を変更し、野村側に約1億1000万円の支払いを命じた。
野村側は最高裁に上告した。
判決文は次の通りです。
・https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf
野村側が最高裁の上告を取り下げ
2021年12月、野村側は最高裁に上告を取り下げた。
これにより、東京高裁の判決が確定した。
上告の取り下げについて野村HD広報は
取り下げは事実。訴訟継続によるメリットとデメリットを総合的に考慮した結果、最高裁への上告および上告受理申し立てを取り下げた。
現在、日本IBMとは対話を通じ、将来に向けて良好な関係にあると認識している
とコメントした。
日本IBMの広報は
野村HD並びに野村証券が最高裁への上告および上告受理申し立てを取り下げ訴訟は終了した。現在、野村HD並びに野村証券とは将来に向けて良好な関係にある
とコメントした。
野村側と日本IBMが良好な関係になったのなら、よかったと言うほかない。
野村HDのX氏は誰?どんな人?
この訴訟を調査して判決文によく出てくるのが、野村HDの投資顧問事業部のX氏です。
X氏は誰でどんな人だったのでしょうか?
判決文によると、
開発当時、投資顧問事業部(判決文では「投資顧問部」)の次長だったX氏は、パッケージソフトに合わせて業務を最適化するという会社の方針に反して自身の現行業務を維持することに固執した。
プロジェクト途中で追加要件を多発し、日本IBMの担当者らに対して「辛辣な他罰的、攻撃的発言」を繰り返した。
東京高裁は、システムの仕様を策定するうえで重要な役割を担っていた野村証券のユーザー部門「X氏」の振る舞いを問題視し、判決文でX氏について「自分の庭先(担当業務)をきれいにすることだけを考えている」と認定しました。
断続的に変更要求を多発するX氏から、目標としていた2013年1月の稼働開始に間に合うのかについて「質問がなかったのが不思議なくらいであった」などと指摘しました。
東京高裁の判決文でこれだけ書かれているので、よほど問題があったのでしょう。
野村側はコントロールできなかったのでしょうか?
日本IBMは、発注側の意向に従うしかなく要件を固めきれなかったんだと思います。
なお、X氏はすでに野村証券に在籍しておらず、退職した模様です。
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